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アフリカオープンイノベーションチャレンジ②:デザイン思考で共創するマーケティングプラットフォーム、ペルソナ設定&デザインリサーチ編
「市場の価格?データ?大事に決まっているじゃない。いまさら言われなくても、そんなの自分の目と耳でこの20年間自ら集めて、仲間に共有してきたわよ。バイヤーの言っていることなんて信じられないしね。」そう笑顔で話す、タンザニアの小規模農家のエリザベスさん(仮名)。今回の開発におけるデザインリサーチ参加者の一人、フィーチャーフォンやスマホを持たない、かつ文字の読み書きができないペルソナだ。
前回のブログ「アフリカオープンイノベーションチャレンジ①:応募に至る動機、そして本プロジェクトにかける想い」から約4か月、本プロジェクトはタンザニアの3都市で行ったPOCを終え、Phase1における最後のカスタマイズ開発まで進んでいる。
プロジェクト名
タンザニア小規模農家のマーケティングプラットフォーム(Anzia Sokoni)開発
目的
- 小規模農家による市場情報の収集と共有を効率化する仕組みを開発する
- 既存の市場情報サービスを連携し、すべてのデータを一元管理する
- データを活用したバイヤーとのマッチングやレコメンデーションなどのマーケティングプラットフォームを開発する
開発プロセス
- ユーザーのペルソナ設定
- ユーザーに対するインタビュー(デザインリサーチ)(←今回のブログ)
- 試作(MVP)の開発
- 実証実験(POC)とカスタマイズ開発
今回のブログは、デザイン思考で共創するタンザニア小規模農家のためのマーケティングプラットフォーム「Anzia Sokoni(市場へ行こう)」の開発における最初のプロセスとなる①ユーザーのペルソナ設定、②ユーザーに対するインタビュー(デザインリサーチ)について紹介したい。
デザイン思考を用いたユーザー中心設計のソフトウェア開発では、①現状の共感と理解、②課題の明確化、③理想の設計、④試作(MVP)の開発、⑤実証実験(POC)とカスタマイズ開発の順番に進んでいく。

ユーザが何を求めているのか?(有用性)を起点とし、実現可能性と持続可能性を併せ持つ価値を生み出すことで、イノベーションが生まれるというアプローチ方法である。

特に今回のような「タンザニアの小規模農家に対するプラットフォーム開発」という、実際のユーザーに対する理解をこれまでの経験や勘では全く通じないプロジェクトの場合、①と②のステップは特に効果を発揮する。その際に活用するのが「デザインリサーチ」である。今回は、新型コロナウィルスの影響で実質現地でのリサーチが難しいため、全てオンラインで行ったが、現地のサポートもあって、期待以上のインサイトを得ることができた。
またデザインリサーチのプロセスにおいて、デザイン思考の開発体制であるデザイン担当のみならず、開発エンジニア、ビジネス、そして実際の想定ユーザーの四位一体で実施することが、インサイトを実際の開発やPOCに直結する上で欠かせない。さらに各チームがプロジェクトを自分事にするために、実際のユーザーの声を聞いて、考えることは、チームビルディングの要素からも効果的であることを改めて実感している。

ペルソナ設定
今回開発するプラットフォームのユーザーは、大きく分けて三つのチームに分けることができる。
- 農業普及員:JICAのSHEPを理解し、担当する農家グループに対して、市場情報の収集からデータを活用した農作物の選定、実際の成果をベースとした次年度の計画策定など、情報をベースとした農家経営に対するアドバイスを行う。今回のプラットフォームにおいては、農家に対するサポートサポート(例:デジタルデバイスを保有していない農家の代わりにデータをアップロード)を行う。
- 農家:SHEPに参加するタンザニアの小規模農家。
- バイヤー:農家の作物を購入する仲介業者や卸売りや小売り業者などのバイヤ―
よって、今回のデザインリサーチに参加するユーザーのペルソナを決定する際も、上記の3チームから対象者を設定する必要がある。さらに、通常のマーケティングリサーチはデザインリサーチの場合は、各チームの対象者の条件を極力ばらけさせる(エクストリームユーザー)必要がある。(市場調査は、対象者条件をそろえて、その中でユーザーのニーズを理解し、ペルソナ内の市場規模を探る)これにより、デジタルデバイドを考慮した一部のユーザーのニーズに偏らないプラットフォームを開発することができる。
例えば農家のペルソナ選定の場合は以下の基準を設け、想定する三人のペルソナを仮定し、現地のパートナーにリクルートしてもらった。ペルソナの仮定を決める段階で、現地のエキスパートと何度もやりとりし、現実的な設定を行うことも重要である。こちらが勝手にペルソナを決めてしまうと、現地でそういった対象を見つけることが難しいため、結果リクルートできたのが事前のペルソナとは全然異なる方になってしまう場合はよくあることだ。

こうして、各チーム3種類のペルソナに合致する、合計9名のユーザー候補に今回オンラインインタビューに参加頂いた。
デザインリサーチ
現地のコンサルタント(この方、過去に日本に留学したことがあり、非常に優秀でインタビュー以外でも本当に助けられている。現地に日本と現地をつなぐブリッジ人材がチームにいることがいかに大事なのかを改めて感じる)に通訳(英語⇔スワヒリ語)兼インタビュアーとして参加頂き、各セッション一時間、合計9時間以上に渡るオンラインのデプスインタビューを一週間かけて実施した。今回作成したインタビューフローは、主に以下となる。

自己紹介から施策のデモまでは、インタビュアーがスワヒリ語で、ディスカッションは英語からスワヒリ語の逐次通訳で日本から質問を行った。(一度、全てを逐次翻訳してみたが、やはり時間が大幅にかかるということと、最初はインタビューに慣れて頂くという点からもスワヒリ語で行うことがスムーズにいくことも実感できた)
ディスカッションは予想以上に盛り上がり、タンザニアの農家としての想いや現状だけでなく、システム開発のアドバイスなど、学びが多くあった。タンザニアに行けないもどかしい想いがあったが、コロナ禍でもユーザーを学ぶ手法は多くあることを改めて実感できた。

エリザベスさんは、インタビューの最後に私たちにこう伝えてくれた。
このAnzia Sokoniができたら、周りにも薦めたいし、私も使えることを楽しみにしているわ。
デバイスの保有や識字能力の有無にかかわらず、今回参加した9人の中で一番「データの価値」を本当に理解している彼女のようなユーザーからの期待に応えること、これがデザイン思考で共創するマーケティングプラットフォームの共創チームに課せられた一番の挑戦となった。
そして、舞台はMVP開発へと進む。
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