お客様インタビュー
お客様インタビュー:公益社団法人鎌倉市観光協会様
数字では見えない観光客のリアルを”声”で可視化――地域共創で進化する鎌倉市観光協会の新しい観光DX
長野:本日は、鎌倉市観光協会の大畑さん、有馬さんにお越しいただき、同協会のマーケティングの取り組みについてお話を伺います。よろしくお願いいたします。まずは、簡単に自己紹介をお願いします。
大畑:2023年8月に鎌倉市観光協会に入社し、鎌倉の観光をどのようにプロモーションしていくか、また協会の主催・運営事業に関する協賛提案などの業務を担当しています。以前は地元紙の神奈川新聞で営業として約7年間勤務していました。その流れで鎌倉に関わることになり、現在に至ります。
有馬:鎌倉市観光協会では主にプロモーション全般を担当しています。鎌倉のマーケティングに関する事業や、昨年開設した鎌倉駅西口の日本遺産「いざ、鎌倉」観光案内所の運営、花火大会などのイベントにも携わっています。入社前は人材紹介関連の会社に新卒で入社し、ベンチャー領域を担当していました。
長野:まさに異業種出身のお二人が中心となり、昨年から始まった鎌倉市観光協会の観光マーケティングの新たな取り組みを進めているわけですね。
数字だけでは見えない宿泊者のニーズを、実際の「声」で把握したい
長野:鎌倉市観光協会では、2024年度から地域一体で鎌倉を訪れる観光客の声を収集し、観光客が発信するニーズや課題を分析して施策に活かす取り組みを開始しました。どのような背景でスタートしたのでしょうか。
大畑:それまで協会として、データ分析の専門会社に入ってもらい、鎌倉を訪れる観光客のGPSロケーションデータを使った、いわゆる「鳥の目」の分析を2023年度から実施していました。これに加えて、鎌倉観光の課題解決につながる観光データを集めたいと考えていました。
鎌倉観光の課題の一つとして、観光客の数は多いものの消費額が低いという現状があります。鎌倉は日帰り観光が大多数を占めます。観光消費額を上げるためには宿泊者数を増やす必要があり、施策を取る前に、まずは「実際にどのような人が宿泊しているのか」「どのようなニーズがあるのか」を調べる必要がありました。
そこでKoeeruさんとの協業で、「あなたの声を聞かせてください Good Morning, Good Night Kamakura」という、市内の宿泊施設と連携し「鎌倉の夜と朝の観光」をテーマに、宿泊客のリアルな声を収集する取り組みを始めました。

一方通行ではなく、同じ方向へ。共創が生んだ変化
長野:これまでの人流・トレンドデータ分析の取り組みと比べて、アンケートで観光客を深掘りできるようになった点に加え、協会単独ではなく地域の事業者と一緒にデータを集める「共創」が大きな特徴だと思います。実際に取り組んでみていかがでしたか。
関係性の構築
大畑:事業者の方々とは、協会の事業などで定期的なつながりはありましたが、それ以上の関係性をつくることができていませんでした。今回の共創事業をきっかけに、関係者とつながる機会が増えたことは大きかったと思います。
同じ方向を見る関係
有馬:日頃から一方通行ではなく、同じ方向を見る関係性が大事だと感じており、その関係を構築するきっかけになったことも、この取り組みの大きな成果だと思います。
進める中で、宿泊施設としての課題を共有いただいたり、やるべきことの新しいアイデアをいただいたりしました。これまではあまり触れられなかった、「鎌倉の観光をどう考えているか」「宿泊事業者としての想い」など、事業者が大事にする価値観に触れる良いきっかけになりました。
長野:事業開始前の事業者向け面談やリサーチ結果の報告会に私も参加しましたが、観光客の声だけでなく事業者の声を直接伺えたこと、そして「自分も参加するプロジェクト」だという意識づくりができたことは、このプロジェクトの成果につながっていると実感します。
誰が鎌倉に泊まっていて、どう行動しているのか。初年度は現状把握から
長野:こうして始まった取り組みですが、1年目の目的と成果はどのようなものでしたか。
大畑:初年度は宿泊施設6施設に限定してスタートしました。宿泊者数を増やすことの重要性は共有していましたが、実際に宿泊している方がどのような人たちで、どう動いているのかは全く把握できていませんでした。そこで、まずは実際の宿泊客に聞いてみましょう、ということで始めました。
初年度は年間を通じて900件以上の回答が得られました。想定より多かったというのが率直な印象です。収集したデータには、もちろん予想どおりの部分もありましたが、新たな発見もあり、現状をしっかり把握できたと感じています。
新しい発見としては、漠然と「インバウンドの人は海が好きなのでは」と思っていた点が、データとして裏づけられました。日本人と比較しても明確な違いがあり、海をベースに鎌倉の予定を組み立てていることがよく分かりました。
観光目的×実際の訪問先で見える、鎌倉宿泊者の行動パターン
長野:協会としての新たな発見があった一方で、事業者の皆様の反応はいかがでしたか。
有馬:事業者の方と話していると、協会もそうですが、施設側も「実際に宿泊している方が夜に何をしているのか、どこで食事をしているのかが分からない」という声が多くありました。今回、いままで見えなかった行動が可視化できたことは、課題解決か施策検討の一助になると、施設の方にも大変喜ばれました。
二点目として、実際の訪問先と観光目的をセットで理解できたことが挙げられます。アンケートに観光目的を入れるかは一般的な質問なので迷いましたが、結果として入れてよかったです。江の島中心の観光ルートと、鎌倉駅〜長谷中心の観光ルートでは、観光目的が大きく異なることが分かりました。観光目的と実際の行動を掛け合わせることで、観光パターンをより深く理解でき、事業者からも評価をいただきました。
長野:まずは実態把握という初年度の目的は達成できたわけですね。
大畑:はい。実際のデータを施策に落とし込む点では、いま動いているものとして、協会が運営する公式サイトで、宿泊者のニーズを反映した「鎌倉の朝・夜マップ」というコンテンツ化を進めています。観光スポットや飲食店の紹介をしており、アンケートの「実際にどの飲食店に行きましたか」という設問で回答の多かった店舗を中心に掲載しています。
長野:実際の観光客の声があると、飲食店にウェブサイト掲載の相談をするときも話が進めやすいですね。

2年目の挑戦:「ホップ・ステップ・ジャンプ」の”ステップ”。鎌倉になぜ泊まらない?
長野:2025年度、2年目としてリニューアルした取り組みについて伺います。初年度を踏まえて、今回の目的は何でしょうか。
有馬:上司の好きな言葉を借りると、2年目は「ホップ・ステップ・ジャンプ」の”ステップ”だと思っています。観光消費額を上げるには宿泊者数を伸ばすことが必要不可欠です。
1年目:ホップ
鎌倉の宿泊について、実際に宿泊している人に聞いて、どうアピールしていけばよいかを探るフェーズ
2年目:ステップ
今、鎌倉に来ているが宿泊していない人はなぜ泊まらないのか、鎌倉の観光・宿泊をどう考えているのかを解き明かすフェーズ
宿泊している人・していない人の両方を理解することで、宿泊数を伸ばすための観光客ニーズを包括的に捉えられると考えています。両方の観光客層に働きかけることで、必然的に宿泊客が増えると考えています。
長野:確かに2年目のアンケートには、日帰り観光客に「なぜ泊まらないのか」という質問も入れていますね。
有馬:はい。そこが最も知りたかった点です。泊まってくれた方には「なぜ泊まったのか」という目的を深掘りし、泊まらなかった方にはその理由を伺う。両方の情報からヒントを得て、施策に落とし込んでいければと考えています。
日帰りと市内宿泊の消費額比較――宿泊者増がもたらす効果をデータで示す
長野:2年目は始まったばかりですが、現時点で見えている成果や期待を教えてください。
大畑:まず分かりやすい成果として、アンケート回収数が増えています。10月4日時点で既に3,700〜3,800件の回答が集まっており、2年目は回収のタッチポイントを増やした効果が表れています。その分、さまざまな軸で比較分析ができ、より効果的な戦略が練れると考えています。また、昨年は入れていなかった「鎌倉観光で実際に何にお金を使ったのか」という設問について、今年は十分なサンプルが集まっており、今後の参考になる有益なデータになっています。
20%
日帰り客の夕食
市内で夕食を食べる人の割合
76%
宿泊客の夕食
市内で夕食を食べる人の割合
3倍
飲食費の差
日帰りを1とした場合
の宿泊客の飲食費
有馬:「観光消費額を上げるためには宿泊者を増やすことが大事」という話を、実際のデータで実証できたのは大きいと感じています。例えば「夕食をどこで食べましたか」という設問では、日帰りだと市内で夕食を食べる人は約20%にとどまるのに対し、宿泊だと76%にのぼります。夕食だけを見ても、日帰りと宿泊では大きく異なる。市内に落ちる金額がこれだけ違うことをデータで示せました。
通常、飲食費は日帰りを1とすると宿泊は2倍程度になると言われますが、鎌倉では3倍になっています。宿泊を伸ばす必要があるという点を協会として発信する根拠になりました。
長野:データを見ると、娯楽費は宿泊の方が高いものの、その差は他の項目に比べて約1.6倍と小さめでした。通常は滞在時間が長い分、娯楽費も増えるはずですが、この結果をどう捉えますか。
有馬:宿泊者だからこそ楽しめる体験コンテンツが、まだ十分ではないのだと思います。実際の観光客の声を見ても、朝や夜の体験ニーズはあります。今後はその部分を充実させていく必要があると感じています。
初めてのVOCプロジェクト――分析の苦労と「自分でやってよかった」という実感
長野:数のデータと比べて、声のデータにはさまざまな発見がありますが、これまでの取り組みと比べて苦戦した点はありましたか。
大畑さんの体験
集めること自体は、事業者の方々の協力もあってスムーズでしたが、結果を見て分析し、レポートにまとめるプロセスは初めてということもあり、苦労しました。見るほどに奥が深く、沼にはまってしまう感覚もありました。
有馬さんの体験
私もデータの分析や、どのように結果を伝えるべきかに悩みました。ただ、やってみてよかったと思っています。自分でデータを扱い、協会の目線で解釈したからこそ、事業者の方に自分の言葉で結果を説明できました。
長野:調査を外注するより手間はかかりますが、その分データへの理解度は確実に上がったと思います。協会としても、お二人のキャリアとしても、収集から分析、施策への落とし込みまで主体的に行うことは大きなプラスになりますね。
地域共創で得られたもの――事業者との関係、観光客理解の解像度、そして協会の方向性発信
長野:苦労が報われた良かった点を挙げるとすると、どのようなことがありますか。
大畑:観光協会の職員として、調査結果を踏まえて鎌倉観光に関する解像度が上がりました。何が足りないのかを考えるための思考の土台ができたと感じます。
宿泊施設との関係構築
四半期ごとにデータを簡潔にまとめて事業者を訪問し、データをベースに会話する機会を持てました。2年目からは、宿泊施設以外の事業者――例えば交通機関や飲食店――とのつながりも増え、連携のきっかけが広がっています。
具体的な施策議論
これまでは「なんとなく海外の人が多いよね」「こういうニーズがあるよね」といった肌感覚の会話が多かったのですが、今は実際の観光客の声(VOC)を根拠に、具体的な施策イメージを議論できるようになりました。
協会の姿勢を明確化
鎌倉市観光協会として「朝夜観光」「宿泊を伸ばす」という姿勢を地域に対して明確に示せたことです。「Good Morning, Good Night Kamakura」という名称のもと、調査の必要性や取り組む意義を、事業者・住民・自治体へ主体的に示すことができました。
現状把握の次に見えてきた課題――それは「データの活用」
有馬:分析以外で、今後力を入れたいのは「データ活用」です。必要なデータを集め、現状を把握し、事業者へ還元するところまでは来られたと思います。しかし、分析から得られた示唆を、宿泊数を上げる具体的な施策に落とし込むところまでは、まだ十分に進められていません。ホームページのコンテンツ強化は進めていますが、それ以外にもできることは多いはずです。
長野:観光分野に限らず、データを実際の活用までつなげることに課題を感じている組織は多いです。
有馬:御社の「豊岡市/豊岡観光イノベーション」の地域観光CRM事例は、実際にデータを活用して情報発信まで行っている点で非常に参考になります。
長野:豊岡でも、活用までにはまずデータ収集・現状分析を丁寧に行い、「誰に、どのような価値を、どう伝えるか」を把握したうえで施策につなげています。鎌倉も同じ流れで来ていると思います。現状把握できたからこそ、「活用」という次の課題が生まれるのは健全なステップです。
大畑:観光協会単体でできることは進めつつ、できない部分は他の事業者と一緒に、今回のデータをベースに会話を重ねながら施策をつくっていくことが重要だと考えています。協会と事業者が一体となってデータを施策に落とし込み、効果を検証していくサイクルが大切だと思います。
長野:地域の課題をクローズにせず可視化することで、解決策を持つ企業が提案しやすくなります。そのためにも、実際の観光客から発せられる声を、より多くの事業者に還元していくことが大事ですね。
関連事業者やスタートアップは常に地域課題を探しており、今回のような観光客の声をきっかけに、新たな連携が生まれることを期待しています。
大畑:以前ご紹介いただいたスタートアップ企業の皆様とのつながりも、今回のプロジェクトがきっかけでしたね。
長野:はい。神奈川県が運営し、弊社のお世話になっているベンチャー企業の成長促進拠点「SHIN みなとみらい」の観光分野のスタートアップ経営者が、協会の定期レポートを通じてこの取り組みに関心を持ち、観光客が抱える課題に対してどのようなコンテンツや情報配信ができるかを、鎌倉市観光協会様と議論する機会が生まれました。こうした機会が今後も増えていけばと思います。

鎌倉市観光協会様と神奈川県の観光スタートアップ経営者(インバウンド向けトラベルナニーサービスを展開するSynk合同会社代表の菅原氏/プレジャーボートを用いたクルージング事業を展開する株式会社PoketPort代表の三宅氏)とのディスカッションの様子(@Koeeru鎌倉オフィス)
Koeeruとの協業のメリット:独自のVOCシステム、機動力と柔軟性、他地域での実績
長野:協会として初めてベンチャー企業と連携した今回のプロジェクトですが、Koeeruとの取り組みはいかがでしたか。通常の委託業務ではなく、「地域活性化連携」という初めての形でしたが。
大畑:システム面はやはりKoeeruさんの強みで、そういった会社が鎌倉にあるのは心強いです。日々のやり取りもベンチャーらしく柔軟で助かりました。一方で、個人的には、このデータをどのように見せたらよいか、事業者様に見せるためのデザイン面、施策に落とし込む解釈の方法などは今後も学びたいと感じています。
システムの強み
導入すればここまで可視化できるのだという経験は、観光協会としても大きな糧になりました。
機動力
ベンチャーだからこそ、柔軟な視点で提案していただき、何かあってもすぐ「こうしましょう」とアクションに導いてくれた。2024年4月開始に向け、確か1月末ごろに「やろう」と決まったと思いますが、その短期間でもスタートできました。
新しい視点
他地域の事例が豊富で、同様の観光協会やDMOが何に取り組んでいるかを紹介していただけるのは、視野を広げるきっかけになります。
長野:期間中、他のDMOさんからも、鎌倉市観光協会との取り組みについて話を聞きたいという声がありました。貴協会の事例は、他地域の参考になる内容だと思います。
有馬:そうですね。神奈川県のDMOさんにも、取り上げるべき事例として紹介していただきました。ベンチャー企業と組むことで、県や他地域が参考にできる取り組みを実現できている点は非常によかったと思います。
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